LATTICE PROJECT

Martin Guest, Richard Palais, 酒井 高司


はじめに

このプロジェクトは研究と教育の両方の側面を持ちます。ばねでつながれた格子(lattice)の運動をモデルとして、力学系および幾何学と可積分系の理論の基本的な概念を理解することが目的です。ばねの張力が線形である場合、運動方程式は定数係数の線形常微分方程式系になり、簡単に解くことができます。しかし、ばねの張力が線形でない場合、格子の運動の解析はとても難しい問題になります。この問題に対してコンピューターによるシミュレーションがとても有効です。

この問題は1954年から1955年にかけてFermi-Pasta-Ulamによって行われた有名な実験によって研究が始められました。彼らの実験はコンピューターを使った実験数学・数学的可視化の最初の例でした。彼らの実験には当時最速のコンピューターが使われました。驚くことにこれらの実験が後のソリトン理論など純粋数学の研究の進展に大きな影響を与えました。

FPUの実験から50年後の現在、実験のツールとしてのコンピューターの役割は純粋数学者の間で認められつつあります。高速なコンピュータと有用なソフトウェアが開発されている一方で、その利用が十分に普及していないという現実があります。その理由として、ユーザーである研究者/教師とソフトウェアとの良い「インタフェース」の不足が挙げられます。このためソフトウェアを利用する際に苦労したり不便さを感じることが多々あります。また、ソフトウェアの使い方だけでなく、その背景にある数学的な内容を解説したドキュメントの不足も指摘されます。 このプロジェクトはこの不足を補うことを目的としてます。


背景

プロジェクトは数学的ソフトウェア 3D-XplorMath に含まれるRichard Palaisによる "Lattice Category" によって始められました。

2000年(当時3DXplorMathは3DFilmstripと呼ばれていました)に、Martin Guestは東京国際フォーラムで開催された都民カレッジにおいて一般の聴講者向けにこの話題に関して一連の講義を行いました。聴講者が持つ知識背景はそれぞれ異なるため、詳しい数式計算の代わりに3D-XplorMathのグラフィックスとシミュレーションを用いて解説しました。2001年に琉球大学において、また2003年にNational Center for Theoretical Sciences (台湾)において数学を専攻する学生向けに行った講義もこの形式で行いました。高い数学的知識を持つ学生に対しても、多数の質点で構成される格子を扱うときの複雑な計算の代わりに3D-XplorMathを使ってデモンストレーションすることは有効でした。

NCTSで行った講義についての非公式な講義ノートが ここ からダウンロードできます。


教育

2004年度前期にMartin Guestと酒井高司は都立大学において数学科の学部2年生向けに「Maple入門」の授業を行いました。単にMapleの使い方を説明するのではなく、数学的な題材として微分方程式と格子の運動について解説しました。この目的の過程でMapleの基本的な使い方を一通り説明することができました。このときの講義ノートをもとに数学および自然科学・工学を専攻する学生向けのテキストを作成しています。日本語版のタイトルは「コンピューターによる格子の運動」を予定しています。このテキストでは初等的な微分方程式からシンプレクティック幾何学のアイデアまでの入門的な解説をする予定です。

[2004年度情報システム論入門講義ノート]

1.線形微分方程式 (4月20日)
1.線形微分方程式 (4月20日)
2.線形微分方程式系 (4月27日)
3.線形・非線形方程式系の保存量 (5月11日)
4.標準モード (5月25日)
5.格子の運動 (6月15日)
6.線形格子 (6月22日)
7.Fermi-Pasta-Ulam (7月6日)
8.戸田格子 (7月13日)


研究

Richard Palais は3D-XplorMath の "Lattice Category" の開発を続け、より高度な実験を行うことが可能になりました。他にもこのような実験を行うことができるソフトウェアがありますが、プログラミングのために時間と労力が必要です。

近くJava版の 3D-XplorMath が公開される予定です。それまではMacintosh版の 3D-XplorMath をダウンロードして、"Lattice Category" を見てください (ODE Category から Lattice Models を選択してください)。このパッケージに含まれる Lattice Models に関するドキュメント (Martin Guest) は次で直接ダウンロードすることができます:

ATC (About This Category): Lattice Models

ATO (About This Object): The Fermi-Pasta-Ulam Lattice, The Toda Lattice


LINKS

Fermi-Pasta-UlamExperiment Wolfram Research

The Fermi-Pasta-Ulam problem : 50 years of progress by Berman and Izrailev